相続・事業承継対策
上手な生前相続対策のすすめ
(7)この土地で支払う
生前相続対策には、納税資金対策もある。生前遺産分割は是非やっていただきたいのだが、相続後の納税も頭に置いておかねばならない。納税資金を手当てしておいてやらなければ、目的の財産を最悪の場合、手放さなければならなくなる。納税資金対策は、それほど重要なのである。相続税を納めるだけの現預金があれば問題はないが、そのようなケースはほとんどない。
相続税を現金で納められなければ、物納という手がある。物納は、金銭納付が困難な場合に特例的に認められるものであるから、金銭があるのに物納を申請することはできない。
物納できる財産は、相続または遺贈により取得した財産(相続人の財産を物納してもらうことはできない)で、国内にあるものとされている。
具体的には、
①自宅の底地
②貸宅地の底地
③借地権
④耕作権の付いていない農地
⑤棚卸資産である不動産
⑥相続した財産により取得した財産
⑦自社株
等があるが、物納できる財産には次のように順位がある。
第一順位 国債、地方債、不動産、船舶
第二順位 社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
第三順位 動産
この順位にしたがってでないと物納は認められない。つまり、物納に適する不動産があるのに自社株を物納することは許されないのだ。また、物納した財産は、原則として換金して納税に充てられるため、物納財産は、管理処分が適当なものでなければならない。
したがって、次のようなものは物納が認められない。
①質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産
②所有権の帰属等について係争中の財産
③共有財産(ただし、共有者の全員が持分の全部を物納する場合はOK)
④買戻し特約などの登記、所有権移転の仮登記がされている財産
⑤売却できる見込みのない財産
非上場の株式の物納は、一定の時期に、買い戻すという条件付でなければ実務では認められない。
貸宅地の物納は、
①隣地との境界がはっきりしている
②貸地の範囲が明確である
③賃料が世間相場並みである
④土地の賃貸借契約書がある
という要件をクリアしなければならないが、借地人が物納することにつき、ウンと言わなければならない。
なお、物納の収納価額は、原則として相続税の評価額とされている。したがって、その物件が相続税評価額より高く売れ、譲渡税を納めてもなお、あまりあるときは、収納されるまでであれば、物納を取り下げて延納に切替え、金銭で一時納付することができるので、そういう手法を用いればよい。それには、とりあえず物納申請をしておかなければならない。延納から物納への切り替えは認められていないから注意が必要である。
(『生前遺産分割のすすめ』より抜粋)