相続・事業承継対策

相続・事業承継対策

改正「事業承継税制」の
しくみとその対策

(8)贈与税の納税猶予

1. どんな人が使うとよいか

贈与税の納税猶予は、先代経営者から後継者へ、経営に必要な自社株を贈与する場合に認められた贈与税の特例である。
中小企業のオーナーの場合は、往々にして、財産は自社株だけという場合が多いが、そのような場合に後継者に自社株を全部贈与してしまったら、他の相続人は何ももらえずトラブルになってしまう。
そんなことから、民法の特例が創設されたのであるが、それとしても相続人全員の合意がなされていなければならない。そうでないと、贈与税が納税猶予されても相続税の申告のところで分割協議がまとまらず、相続税の納税猶予が申請できなくなってしまうハメになる。
こうなっては元も子もない。この制度を受ける前に「会社の株は甲、残りを相続人で分ける」という合意を取り付けておこう。

2. どのようにしておかなければならないか

贈与税の納税猶予には、贈与者と受贈者について次の要件が課されている。

1. 後継者(受贈者)の要件

贈与を受ける時において、次の要件を満たしていること
(イ)会社の代表権を有していること
(ロ)20歳以上であること
(ハ)役員等の就任から3年以上経過していること
(ニ)総議決権数の50%超の議決権を後継者及びその親族で有しており、かつ、これらの者の中で最も多く議決権を有することとなること

2. 先代経営者(贈与者)の要件

(イ)会社の代表権を有していたこと
(ロ)贈与の時までに代表取締役を退任すること
(ハ)贈与の直前において、総議決権数の50%超の議決権を贈与者及びその親族で有しており、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多く議決権を有していたこと

したがって、この適用を受けるには、まずこの要件を満たしておかなければならない。

3. 贈与税の納税猶予か相続税の納税猶予か

納税猶予には相続税の納税猶予と贈与税の納税猶予があるが、どちらを適用するのがいいか。いろいろ会社によって事情が違うので、こうだとは言い切れないが、次のようなことを考慮して判断されるとよい。

1. 贈与税の納税猶予を受けた株式等は、相続の際に、相続又は遺贈により取得したものとみなして相続財産に取り込まれるが、その時の価額は贈与時の価額となっている。したがって、株式等の価額が上がっていくと見込まれる場合には、贈与税の納税猶予の適用を受けておくのがよい。

2. 贈与の納税猶予は、受贈者が20歳以上であること、役員等の就任から3年以上経過していることの要件があることから、これをクリアしないと納税猶予は受けられない。

3. 贈与税の納税猶予は遺産分割についての相続人の明確な合意はいらないが、相続税の納税猶予は、申告期限までにその株式等の分割が確定していなければ適用が受けられない。

4. 相続税の納税猶予については、相続開始の時において、被相続人が代表者であっても、又はそうでなくても、議決権数の要件を満たしていれば、適用を受けることが可能であるが、贈与税の納税猶予については、贈与の時までに、役員(改正後は代表取締役)を退任しておかなければならない。

4. 贈与税の納税猶予か相続時精算課税か

自社株を後継者に贈与する場合、納税猶予がいいのか相続時精算課税がいいのか。違いをまとめてみると次のようになる。

  贈与税の納税猶予 相続時精算課税
対象となる会社 一定の中小企業者 制限なし
贈与者 代表権を有していた一定の者 贈与年の1月1日現在で60歳以上(現行65歳以上)(一般型)の両親、祖父母(現行両親のみ)
受贈者 贈与日に20歳以上である一定の代表取締役 贈与年の1月1日現在で20歳以上の贈与者の推定相続人、孫(現行推定相続人のみ)
株式数 一定の要件あり 要件なし
他の財産の贈与 特に影響なし すべて相続時精算課税となる
贈与後 一定の届出が必要
取り消される場合もある
同上
相続時 相続又は遺贈により取得したものとみなされる 相続財産に加算
税額 相続時に免除となり、一定の要件を満たせば相続税の納税猶予の適用が受けられる 納めた税額は控除される
相続税の課税価格 贈与時の価額
相続税対策の観点 相続税の納税猶予を受けるとなると8割相当額が猶予され一定の場合には免除される ほとんどない
5. 贈与税の納税猶予か贈与か

自社株を後継者に贈与する場合、納税猶予がいいのか贈与がいいのか。違いをまとめてみると次のようになる。

  贈与税の納税猶予 贈与
対象となる会社 一定の中小企業者 制限なし
贈与者 代表権を有していた一定の者 制限なし
受贈者 贈与日に20歳以上である一定の代表取締役 制限なし
株式数 一定の要件あり 制限なし
他の財産の贈与 特に影響なし
贈与後 一定の届出が必要
取り消される場合もある
何もなし
相続時 相続又は遺贈により取得したものとみなされる 何もなし
税額 相続時に免除となり、一定の要件を満たせば相続税の納税猶予の適用が受けられる 贈与財産によって変わる
基礎控除の範囲であれば税額の負担がない
相続税の課税価格 贈与時の価額 贈与時の価額(相続開始3年以内の贈与だけが対象になる)
相続税対策の観点 相続税の納税猶予を受けるとなると8割相当額が猶予され一定の場合には免除される 時間をかければ税額の負担を大きく減らすこともできる